はじめに|「モテそう」なだけで始めた美容の道
「なんで美容師になろうと思ったの?」
これまで何百人もの美容師さんと出会い、その言葉を何度となく耳にしてきました。
そして返ってくる答えの多くは…意外とシンプルで、ちょっと笑ってしまうようなものばかりなんです。
「なんとなく、オシャレそうだったから」
「髪色とか自由にできるから」
「モテそうだったし、カッコよく見えた」
そんな“軽い動機”が、美容師を目指したきっかけという人、実はすごく多い。
もちろん、中には「人をキレイにしたい」「誰かの人生を変えたい」という明確な志を持った方もいます。
でも、ほとんどの人は“なんとなく”この業界に入ってきたというのが、正直なところです。
かくいう僕自身も、美容師ではありません。
美容業界に携わる立場として、長年この世界を見てきました。
サロン経営をサポートし、美容師さんたちと一緒に未来をつくっていく――そんな役割です。
だからこそ、夢にあふれた美容学生の皆さんに、少しだけ「現場のリアル」を伝えたいと思いました。
なぜなら、美容師という職業は、見た目以上に過酷で、誤解されやすいからです。
たしかに、美容師はオシャレで、華やかで、自由そうに見える。
でも、現実には――
・毎日立ちっぱなし
・手荒れや腰痛との戦い
・低賃金や長時間労働
・技術の習得には膨大な練習と時間
・そして何より、“人”と向き合うという難しさ
この仕事を選んだ人の多くが、「こんなに大変だとは思わなかった」と口にします。
特に、キラキラした都市型のサロンや、感度の高い若者向けのお店で働くというのは、
想像以上に厳しい世界です。
華やかに見える裏側では、想像もつかないような努力と根性、試行錯誤が積み重ねられています。
でも、それでも美容師を続ける人がいる。
むしろ、「辞めたくない」と言い続ける人がいる。
それは、間違いなく“やりがい”があるからなんです。
美容師という職業には、人の人生を変える力があります。
自分の手で、お客様の表情や言葉、そして心まで変えてしまうほどの“魔法”がある。
そしてそれは、なにも「カリスマ美容師」だけができることじゃありません。
都市型のサロン、郊外のサロン、大型店、小型店、個人サロン――
どんな場所であっても、それぞれに違った価値があって、違ったお客様がいて、違った輝きがあります。
このコラムでは、そんな「美容業界の本当の姿」と、
「自分に合った働き方の見つけ方」を、美容学生の皆さんにお届けしたいと思っています。
夢を持つことは素晴らしいことです。
でも、夢だけではやっていけないのが、プロの世界。
だからこそ、“現実を知った上で夢を持てる人”になってほしい。
今、あなたが抱いている「憧れ」を、否定するつもりはまったくありません。
ただその憧れの先に、どんな世界があるのかを、一緒に見ていけたらと思っています。
第1章|実は全然違う、美容室の「タイプ分類」
美容室って、全部同じように見えていませんか?
カットして、カラーして、パーマして…
どこに行っても似たようなメニューが並んでいて、
内装がオシャレなら、どこも一緒に感じるかもしれません。
でも、実際のところは全然違います。
一言で「美容室」といっても、サロンのタイプによって働き方も、求められる技術も、まったく違うんです。
ここでは、僕がこれまでに携わってきたたくさんの美容室をもとに、
4つの代表的な“サロンのタイプ”を、わかりやすく紹介していきますね。
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1. ハイセンス個人店型|「カリスマ美容師」が生まれる場所
まず1つ目が、都市部にある「ハイセンス個人店型」です。
このタイプのサロンは、オーナー自らが高い技術と感性を持っており、
コンテストで受賞していたり、雑誌やメディアからの取材経験があったり、
美容業界の最前線を走っているようなスタイルです。
カットのデザイン力や、トレンドを押さえたデザインカラーが得意分野で、
感度の高い若者やモデル系のお客様が多く訪れます。
スタイリストのSNSを通じて来店するお客様も多く、
サロンというより“個人ブランド”として人気を集めているケースも少なくありません。
ただし、このタイプのサロンで働くには――
「圧倒的なセンス」と「妥協なき努力」、そして「セルフブランディング力」が求められます。
技術はもちろん、雰囲気、立ち居振る舞い、発信力まで、
すべてにおいて“自分”を磨き続けなければいけません。
その分、成果が出たときはものすごい達成感がある。
でも、はっきり言って“誰でもできる仕事”ではありません。
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2. 大型トレンド型|オシャレだけど、ちょっと現実的
2つ目は、これも都市部に多い「大型トレンド型」サロンです。
店舗デザインはオシャレで、若いスタッフも多く、
お客様は20〜40代くらいまで幅広い層が中心。
髪質改善やデザインカラー、インナーカラーなど、トレンドを取り入れたメニューが充実しています。
メディアへの露出もそこそこあり、「〇〇市 美容室」で検索すると上位に出てくるようなイメージ。意外と郊外に系列店もあったりと地域密着のサロンを展開しながら都市部にアンテナ店舗を構えていたりもする特徴がある。
このタイプのサロンは、感度の高いスタイルを打ち出しつつも、
ある程度の“回転力”も求められるため、スピードと効率のバランスが重要です。
つまり、オシャレな世界観の中に、“売上”や“組織運営”という現実的な側面もあるということ。
感性と売上、理想と現実のはざまで、プロとしての在り方を学べる環境です。
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3. 大型郊外型サロン|落ち着いた空間で「生活密着型」の美容を
3つ目は、郊外のショッピングモールやロードサイドにある「大型郊外型サロン」。
最近では内装にもかなりこだわるお店が増えていて、一見すると都心のサロンと変わらないほどオシャレ。
ただし、通ってくるお客様は比較的落ち着いた層が中心で、40代以降の女性がメインとなるケースが多いです。
主なニーズは「グレイカラー(白髪染め)」「ボリュームアップ」「髪質改善」など、
いわゆる“生活に寄り添う美容”。
トレンドを追い続けるというよりも、
「また来月お願いしますね」というリピート性と信頼関係がベースになっています。
そして、技術面よりも“安心感”“信頼感”“人間性”が重要視される場面が多く、
美容師として“人と丁寧に向き合う力”が自然と身につきます。
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4. 個人サロン|独立した美容師が地元に根付くスタイル
最後は、「個人サロン」。
こちらは、大型サロンや都市型サロンで経験を積んだ美容師さんが、
地元に戻って小さなサロンを構えているようなスタイルです。(都市部にもある)
規模としては10坪前後、スタッフは1~2名、完全マンツーマンのことも多く、
「地域密着×少人数」という温かい空気感が特徴。
客層はサロンによって異なりますが、主婦層やシニア層が中心のことが多いです。
このタイプのサロンは、派手さはないけれど、
美容師さんの技術力や人柄が“まるごとそのまま”お客様に届く環境です。
派手な発信やブランディングではなく、
「〇〇さんにやってもらいたい」という、“人”に対する信頼が積み上がっていきます。
都市部の個人サロンは技術力が高く、少人数でもアシスタントが在籍している事も多い。
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「どこが良い」ではなく、「どこが合うか」
ここまで紹介してきた4つのサロンタイプ。
読んでみて、あなたはどれに一番近づきたいと感じましたか?
大切なのは、「どのサロンが“良い”か」ではなく、
「どのサロンが“自分に合っている”か」という視点です。
見た目のキラキラ感やイメージだけではなく、
その中でどんな働き方をして、どんなお客様と関わって、
どんな美容師になっていきたいのか――。
それを考えることが、最初の一歩になります。
そしてそれは、学校ではなかなか教えてくれないことでもあります。
だからこそ、今のうちに「いろんな美容室があるんだ」という視点を持っておくことは、
あなたの未来にとって、きっと大きな武器になるはずです。
そして実は、多くの美容学生や若手美容師がこの“サロンのカテゴリ”を知らないまま就職を決めてしまうのが現実です。
もしあなたが最初に選んだサロンで「なんか違うかも…」と感じても、それはあなたに才能がないわけでも、根性が足りないわけでもありません。
単に「そのカテゴリが合わなかっただけ」という可能性が大いにあるのです。
ハイセンスな都市型で苦しんでいた人が、郊外型のサロンに移った瞬間に輝き出すこともある。
個人サロンに転職してから、お客様との関係が面白くてやりがいを取り戻す人もいる。
最初に選んだ道が「合わない」と思ったときこそ、別の“選択肢”があることを思い出してほしい。
美容師という仕事自体を諦める前に、“別の居場所”を探してみてください。
それだけで、人生は大きく変わる可能性があるのです。
第2章|キラキラに見えるあの人たちも、めちゃくちゃ努力してる
Instagramを開けば、フォロワー数何万人の人気美容師。
YouTubeでは丁寧な解説動画で大バズリ、TikTokでは毎日のようにヘアアレンジ動画が回ってくる。
「カッコいいな」
「オシャレだな」
「自分もあんなふうになりたいな」
きっと、美容学生のみなさんも、何人か“憧れの美容師”がいると思います。
でも――その人たちは、なぜそこまで輝いて見えるのでしょうか?
その答えは、とてもシンプルです。
「人の何倍も、努力してきたから」
これに尽きます。
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キラキラの裏には、地味で孤独な積み重ねがある
SNSでキラキラ輝いている人たちって、実はめちゃくちゃ地味な努力をしているんです。
・朝7時に出勤して、ウィッグカットの練習
・営業後にモデルハントして、深夜まで撮影
・休日返上でセミナーに参加
・自分の投稿を何時間もかけて編集し、SNS戦略を考える
・売上が伸びずに悩み、改善策をひたすら模索する
そういう“人目に触れない部分”を、何年も、何年も続けてきた人だけが、ようやく“見える場所”に出られるのです。
キラキラした見た目の裏には、
しんどいことも、悔しいことも、孤独も、たくさん詰まっている。
でも、それを人に見せることはほとんどありません。
あくまで「プロ」として、明るく、ポジティブに、自分を発信し続けているのです。
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「センスがある人」って、本当に才能だけ?
よく美容学生から「私、センスないから向いてないかも…」という言葉を聞きます。
でも、安心してください。
“センス”って、ほとんどが「鍛えられるもの」です。
もちろん、生まれ持った感性の違いはあります。
でもそれ以上に大きいのは、「どれだけ興味を持って見続けたか」「どれだけ本気で吸収しようとしたか」です。
ファッション雑誌、美容師のSNS、街ゆく人の髪型、モデル撮影のライティング――
“日常のすべてを観察し、インプットし続ける人”だけが、結果として“センスが良い”と呼ばれるようになる。
つまり、「センスがある=才能がある人」じゃなくて、
**「センスがある=観察し続けてきた人」**なんです。
第3章|「美容師のリアル」を、もう少しだけ伝えておくね
「美容師って、華やかで楽しそう」
「毎日好きなことして、オシャレして、お客様とおしゃべりしてるだけでしょ?」
そんなふうに思っている美容学生も、少なくないかもしれません。
たしかに、それも“事実の一部”です。
でも、そのイメージの裏に隠れている「もう一つの事実」についても、知っておいてほしいのです。
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美容師は、体力と精神力の両方が求められる仕事
まず最初にお伝えしたいのは、とにかく体力勝負だということ。
朝から晩までずっと立ちっぱなし。
昼ごはんをゆっくり食べる時間もなく、ようやく座れるのは帰りの電車の中。
一日中、腕を上げてカットやブローを続けていると、肩も腰もバキバキ。
手荒れがひどくて指が割れ、シャンプーするのが痛い…そんな日だってあります。
さらに、美容師は「お客様商売」です。
つまり、**“人の心に常にアンテナを張っている”**という、見えない消耗もあるんです。
「今日は機嫌悪そうだな」「あ、この話題はやめておこう」
そうやって気を配りながら、常に笑顔で会話をつづける――
これは、簡単そうに見えて、かなりの集中力と精神力が必要なんです。
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給料が安い、拘束時間が長い、将来が見えない?
美容業界ではよく、「やりがい搾取」という言葉が使われます。
・働いても働いても、手取りが少ない
・月に6日しか休めない
・練習は営業後だから、帰るのは毎日夜10時過ぎ
・なのに先輩からのプレッシャーも強くて、気が休まらない
・数年働いても将来像が見えない
こういった話は、残念ながら今でも多くのサロンで聞かれます。
とくに、都市型のハイセンスなサロンは、「競争が激しい」うえに「成果主義」なことが多く、
体力・技術・人間力のすべてが求められます。
「美容師って華やかでいいな~」と外から見ていた世界が、
いざ中に入ってみると「想像と全然違った…」というギャップに苦しむ人も少なくありません。
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でも、それでも辞められない人たちがいる
では、なぜそんなに大変なのに、多くの人が美容師を続けているのでしょうか?
その答えは、とてもシンプルです。
**「それ以上に、うれしい瞬間があるから」**です。
・初めて指名が取れた日
・お客様に「ありがとう」「また来たい」と言われた瞬間
・自分の技術で誰かが笑顔になったとき
・「私、あなたに切ってもらってから前向きになれた」と言ってもらえた日
こういった“リアルな感謝”が、どんな疲れも、どんな悩みも、一瞬で吹き飛ばしてくれるんです。
そして、これはどの業界にもなかなかない、**“人の人生にダイレクトに関われる仕事”**ならではの魅力。
だから、辞めたいと思ったときに思い出すのは、怒られた日でも、売上が足りなかった日でもなく、
「誰かの笑顔に出会えた日」なんです。
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“続ける”ためには、現実をちゃんと知ること
ここまで聞いて、「ちょっと怖くなった」と感じたかもしれません。
でも、それでいいんです。
むしろ、今このタイミングで“現実”を知っておくことが、一番の武器になります。
覚悟がある人は、折れません。
厳しさを理解した上で始めるから、迷っても戻れる道を知っている。
逆に、何も知らずに「なんとなく」で飛び込んでしまうと、
現実とのギャップにやられて、心がポキッと折れてしまいます。
だから僕は、美容学生の皆さんにこそ、この“リアル”を伝えたいんです。
美容師は、決して楽な仕事じゃない。
でも、それでも**「やっててよかった」と心から思える日が来る仕事**なんです。
その日のために、今、知っておいてほしいこと――
それが、この章に込めたメッセージです。
第4章|「誰でもキラキラ美容師になれる」は、正直ちょっと違う
美容学校に入ったばかりの頃って、夢がいっぱいありますよね。
「将来は有名になりたい」
「指名がたくさんもらえる美容師になりたい」
「SNSで人気出て、サロンの看板スタイリストになりたい」
その気持ち、すごくわかります。
そして、それを否定するつもりもまったくありません。
夢を持つことは素晴らしいし、その原動力があってこそ成長できるのも事実です。
でも、現場のリアルを見てきた立場として、どうしても伝えておきたいことがあります。
それは、「誰でも、簡単にキラキラ美容師になれるわけじゃない」ということです。
美容学校では、基本的にポジティブな情報しか伝えません。
それはもちろん、学生のモチベーションを下げないためだし、夢を膨らませる時期でもあるからです。
でも、その結果として、現場とのギャップに戸惑う人が本当に多いんです。
たとえば、こういった声をよく聞きます。
「入ってみたら、想像以上に練習が多くて、遊ぶ暇なんてなかった」
「休みも少なくて、身体がしんどくてついていけない」
「先輩はすごく厳しくて、自分が情けなくなった」
「デビューまでの道のりが遠くて、焦ってしまう」
こうした現実に直面したとき、夢見ていたキラキラした未来が、
急に遠く感じてしまうことがあります。
でもそれは、あなたがダメなんじゃなくて、
最初に「美容師ってこういうものだよ」と教えてもらえなかっただけ。
努力すれば報われる。
それは間違いではないけれど、努力の“方向性”を間違えると、空回りすることもあります。
そして何より、“キラキラ”の定義って、人それぞれなんです。
SNSでバズっている美容師もいれば、地元で10年以上、
一人ひとりのお客様とじっくり向き合いながら信頼を積み重ねている美容師もいる。
見た目の華やかさやフォロワー数だけでは測れない価値が、
この業界にはたくさんあるんです。
それでも、学生時代はなかなかそういう話を聞く機会がありません。
学校では「トレンドを学ぶ」ことが多く、「現場で生き抜く力」や「仕事としての美容」は、
なかなか体系的に教わることがないのが現状です。
だからこそ、この記事を読んでくれているあなたには、早い段階で気づいてほしいんです。
キラキラした世界に飛び込むことは、悪いことじゃない。
むしろ、挑戦する価値のある道です。
でも、その先にある現実を知った上で、
「それでも自分はどう生きたいのか」を考えることが、プロとしてのスタートラインだと思います。
夢は持っていていい。
でも、夢だけでは食べていけない。
だから、現実も知って、戦略を持って、自分の人生を切り拓いていってほしい。
この章の結論はシンプルです。
誰でもキラキラ美容師にはなれない。
でも、誰でも“誰かのために輝ける美容師”にはなれる。
そして、その輝きは、きっとあなたにしか出せない色をしているはずです。
厳しい現実を前に、「もう美容師辞めようかな…」と悩む人は少なくありません。
実際、美容師という職業に就いてから10年以内に辞めてしまう人は、9割を超えるとも言われています。
でもその理由の多くは、「自分には無理だった」という絶望ではなく、
「この働き方しか知らなかったから」「他に道があるなんて知らなかったから」という情報不足によるもの。
サロンの種類や働き方の違い、自分に合うフィールドが他にあるかもしれないという可能性――
それらを知らないまま、一つの道だけでつまずいてしまい、「美容師向いてないかも」と思ってしまう。
でも、そんなふうに諦めなくていいんです。
この業界には、まだまだ多くの選択肢があります。
一つの道でうまくいかなくても、違う場所でなら、あなたはきっと輝ける。
第5章|違う魅力がある、郊外型サロンの世界
「美容師=東京の有名サロンで働く人」
そんなイメージ、ありませんか?
実際、美容学校では都市型のハイセンスなサロンを志望する人が多いですし、
先生や先輩たちも「まずは都心に出て勝負しなさい」と言うことがあります。
もちろん、それが悪いわけではありません。
感度の高いお客様と出会えたり、トレンドの最先端に触れられたり、
成長スピードが早い環境で自分を試せるという点では、とても刺激的で価値のある場所です。
でも一方で、そんな都市型サロンとは違う、“もうひとつの美容の世界”もあるんです。
それが、郊外型のサロンです。
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郊外サロンの役割は、“おしゃれ”だけじゃない
たとえば、40代・50代・60代の女性たち。
彼女たちは、日々の生活の中で「白髪が気になる」「ボリュームがなくなってきた」「髪がパサつく」など、
リアルな悩みを抱えています。
若者のようにデザインカラーやハイライトで華やかにしたいというより、
「いつもキレイに整えておきたい」「清潔感がほしい」「若々しく見られたい」
そんな気持ちが大きいんです。
そのニーズに、丁寧に、真摯に応えていくのが、郊外型サロンの強みです。
派手なカラー提案は必要ないかもしれない。
でも、「髪質の改善」「まとまり」「白髪を上手に活かす工夫」など、
生活と密接に結びついた価値を提供する。
それは、美容という枠を超えて、「その人の人生に寄り添う仕事」だと思うんです。
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「あの人にお願いしたい」 それが最高の信頼
郊外型サロンでは、一人ひとりのお客様と長く関係を築くことが大切になります。
単発のスタイルチェンジではなく、「また1ヶ月後に来てもらえる関係性」が軸です。
つまり、“一生通ってもらえる美容師”になれる可能性があるということ。
「もう15年この人に切ってもらってる」
「私の髪の悩みを一番わかってくれている」
「なんでも相談できる存在になっている」
そんな美容師さんが、郊外の街にはたくさんいます。
SNSには出てこないけれど、毎日しっかりと誰かの人生を支えている人たちです。
売上がどうとか、フォロワーが何人とかでは測れない、深い信頼関係。
それは、都市型サロンではなかなか築けない貴重な価値だと思います。
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「美容師としての成功」は、たった一つじゃない
「美容師として成功するには、都心で人気者になるしかない」
そんなふうに思っていたとしたら、ぜひ視野を広げてみてください。
郊外型のサロンでも、いや、むしろそこだからこそ得られるやりがいがあります。
・お客様から手紙や差し入れをもらう
・「あなたのおかげで、外に出るのが楽しみになった」と言われる
・親子3世代で通ってくれるようになる
・その街で、信頼される存在になる
これって、とてもすごいことです。
SNSでバズるより、何倍も心が温かくなる瞬間じゃないでしょうか。
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華やかさよりも、“必要とされる喜び”を
もちろん、「有名になりたい」「東京で腕を磨きたい」という想いがあるなら、
それに挑戦するべきです。若いうちに挑む価値は絶対にあります。
でも、「ちょっとそれは違うかも」と感じるなら、
無理に“キラキラの世界”を目指す必要はありません。
自分が心地よく働ける場所、自分を必要としてくれる人がいる場所、
そういうところで美容師を続けていくという選択も、立派なプロフェッショナルの道です。
どんな場所で働くかは、単なる就職の話ではありません。
それは、自分がどう生きていきたいか、という生き方の選択でもあるんです。
だから、自分が“自然体でいられるサロン”を見つけてほしいと思います。
派手さはなくても、まっすぐに人と向き合える。
そんな美容師が、もっと評価される時代になってほしいと、僕は本気で思っています。
第6章|「どんな美容師になりたいか」は、自分で選んでいい
ここまで読んできて、少しでも「自分ってどんな美容師になりたいんだろう」と考えはじめた方へ。
この章では、その問いにちゃんと向き合っていきたいと思います。
まず、はっきりお伝えしたいことがあります。
どんな美容師になりたいかは、誰かに決められるものではありません。
流行や周囲の声に振り回されず、「あなた自身がどうありたいか」が、いちばん大事なんです。
たとえば、こんな美容師もいます。
・有名じゃないけど、地元のお客様から圧倒的な信頼を得ている人
・カットは得意じゃなくても、頭皮ケアのアドバイスがとても上手な人
・手先は不器用だけど、カウンセリングが丁寧でリピート率が高い人
・大きなサロンに所属せず、自宅の一室で少人数の施術をしている人
どの人も、それぞれの「自分らしい美容師像」を選んで、その道を歩んでいます。
美容師=カットがうまい人
美容師=センスが光る人
美容師=有名なサロンで働く人
そうした“理想像”のようなものに、無意識に縛られていませんか?
でも実は、そのどれにも当てはまらなくていいんです。
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「自分は何が得意か」「どんな人に喜んでもらいたいか」
美容師として生きていく上で、大切にしてほしい問いがあります。
それは、「自分は何が得意か」と「どんな人に喜んでもらいたいか」。
たとえば、おしゃべりが得意な人は、お客様との会話を通じて安心感を届けられるかもしれません。
手先が器用な人は、アレンジや施術の仕上がりで驚きを届けられるかもしれません。
聞き上手な人は、お客様のストレスや悩みをそっと受け止められるかもしれません。
美容師に求められる力は、技術やセンスだけではありません。
“人としてどう在るか”が、そのままお客様に伝わっていく仕事なんです。
だから、自分の強みや個性を無理に変えようとしなくていい。
あなたらしさを活かせる場所やスタイルを、自分で選んでいい。
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誰かの真似じゃなく、「自分の道」を描いてほしい
今はSNSがあるから、他人の成功が毎日流れてきます。
「あの人みたいになりたい」「自分はまだまだだ」と焦ってしまうこともあるかもしれません。
でも、焦る必要はありません。
その人は、その人のフィールドで努力してきたから、今があるんです。
そしてあなたには、あなたにしか見えない景色があります。
真似ではなく、自分のストーリーを描く。
その第一歩が、「自分はどんな美容師になりたいか」を言葉にしてみることです。
もちろん、最初から明確に答えが出る人なんていません。
だからこそ、迷っていいし、悩んでいい。
でも、その中で「これは違う」「これなら好きかも」と少しずつ自分を知っていけば、それが未来をつくっていきます。
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働く場所は、「生き方」でもある
美容室を選ぶということは、単なる就職活動ではありません。
それは、自分の価値観や人生観をどう表現していくかという、「生き方の選択」でもあると思っています。
都会でバリバリやりたいのか、地元でじっくり向き合いたいのか。
スピード重視の現場が合うのか、丁寧な接客がしたいのか。
売上や評価を追いかけたいのか、人との信頼を積み重ねていきたいのか。
正解なんてありません。
ただ、自分にとっての“心地よさ”を大事にしてほしいんです。
そうやって選んだ場所で、あなたが輝ける瞬間は必ずあります。
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今はまだ、わからなくていい。だからこそ、今は吸収してほしい
最後に、少しだけ安心してもらえることを言いますね。
今、「自分がどんな美容師になりたいか」なんて、明確にわからなくて当然です。
だって、まだ現場に出ていないし、知らないことの方が多いんだから。
でも、それでいいんです。
大事なのは、わからないことを否定するんじゃなくて、
「わかろうとする姿勢」を持ち続けること。
いろんなサロンを見て、いろんな人の話を聞いて、
いろんな働き方や価値観に触れて、たくさん吸収してください。
そしていつか、心から「これだ」と思える瞬間がきたら、
そのとき、きっとあなたは“自分の美容師像”に出会えているはずです。
第7章|今、学生のあなたにできること
ここまで読んできて、「じゃあ、自分は今何をしたらいいんだろう?」
そう思った方も多いかもしれません。
焦らなくて大丈夫。
でも、「動き出すこと」は、早ければ早いほどいい。
今のうちから、少しずつ「美容師になる準備」を始めておくと、
現場に出てからの自分がきっと助かります。
ここでは、美容学生の“今”だからこそできることを、いくつかお伝えします。
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とにかく、いろんなサロンを見に行ってみよう
まずおすすめしたいのは、「現場を自分の目で見る」こと。
学校で学ぶ知識や技術は、あくまで“基礎”です。
現場では、それとはまったく違う空気、スピード、価値観が流れています。
だからこそ、授業の合間や休日を使って、できるだけ多くの美容室を見に行ってほしい。
・地元のサロン
・大型チェーン店
・カリスマ美容師がいる個人店
・商店街にある長年続く美容室
・男性客メインのバーバー風サロン
・スパメニューが充実しているリラクゼーションサロン
見学だけでなく、実際に“お客様として”行ってみるのも良い経験です。
そこで接客を受けることで、「自分はどんな雰囲気が好きなのか」「どんな接客が心地よいのか」が自然とわかってきます。
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アルバイトやインターンを通じて、現場を体験しよう
学校の外でサロンワークを体験することも、非常に大きな学びになります。
まだシャンプーができないとしても、掃除や受付、クロスの準備や片付けなど、
どんな作業にも“プロの現場の動き方”が詰まっています。
スタイリストの会話の間の取り方、アシスタントの気遣いの仕方、
タオルの畳み方ひとつにしても、現場ならではの工夫があります。
学生のうちに少しでもその“空気感”を感じておくと、
いざ就職しても驚くことが少なく、スムーズにスタートできるんです。
そして、そこで出会う先輩たちが、後々あなたの“味方”になってくれることもあります。
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好きなもの、得意なことを「言語化」しておこう
意外と大切なのが、「自分のことを知る時間をつくる」ことです。
・人と話すのが好き
・物事をコツコツ練習するのが得意
・新しい技術を調べるのが好き
・人の悩みを聞くのが苦じゃない
・ヘアアレンジより、頭皮ケアのほうに興味がある
こんなふうに、自分の特徴や興味を言葉にしておくと、
就職活動のときにも、自分に合ったサロンが選びやすくなります。
得意なことがわからないなら、「何が苦じゃないか」を探してみるのもおすすめです。
そして、就職先を探すときに「このサロンの考え方、自分と合いそうだな」と思える瞬間がくれば、
きっとそこが、あなたにとっての“最初の居場所”になるはずです。
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「情報の波」に飲まれすぎないことも、大切なスキル
SNSやYouTube、TikTok――
今は情報が無限にあって、すぐに誰かの技術や人気が見えてしまいます。
その分、「自分は全然ダメだ」と落ち込んでしまう人も少なくありません。
でも、情報に触れることと、情報に飲まれることは、まったく違います。
必要な情報を冷静に選び、自分に合うヒントだけを受け取る。
それもまた、これからの時代の大切な“サバイバル力”です。
誰かの成功と自分を比べなくていい。
あなたはあなたのペースで、少しずつ“準備”を始めればいいんです。
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「今、がんばっている」という実感が、あなたを強くする
たとえまだ技術が未熟でも、どんなに迷っていても、
“何かに向かって前に進んでいる”という実感は、必ず自信につながります。
自信って、突然湧いてくるものではありません。
ちょっとした経験の積み重ねと、小さな成功体験の連続が、自信になるんです。
だから今のうちに、たくさん見て、たくさん感じて、たくさん考えてください。
「まだ学生だから」は、チャンスです。
間違えてもいいし、迷ってもいいし、転んでもやり直せる。
でも、何もせずに過ごした学生時代と、少しずつでも動いていた学生時代とでは、
その後のスタートラインがまったく違ってきます。
ぜひ、自分のために“今できること”を大切にしてほしい。
それが、将来のあなたを支える大きな力になります。
おわりに|あなたの未来は、あなたが決めていい
ここまで読んでくださったあなた、本当にありがとうございます。
きっと今、いろんな感情が湧いているかもしれません。
「ちょっと不安になった」
「もっとちゃんと知っておきたいと思った」
「夢ばっかり見てたかも…」
「でもやっぱり、美容師っていいな」
どんな感情であっても、今のあなたの中に“気づき”が生まれたのなら、それがすべてのはじまりです。
この記事では、美容室のタイプごとの違い、現場のリアル、努力の尊さ、
そして“誰かと比べない自分らしい道”の見つけ方までをお話ししてきました。
どの章でも一貫して伝えたかったことがあります。
それは――
「どんな美容師になるかは、あなたが決めていい」
「そして、どんな働き方を選んでも、それは全部“正解”になり得る」
ということです。
美容師という仕事は、華やかなようで、実はとても地道で、繊細で、奥が深くて。
だからこそ、いろんな選択肢があります。
都会で最先端のカット技術を追いかけてもいい。
地元のサロンで、親子3世代のお客様とゆっくり関係を築いてもいい。
たくさんの指名客を抱えて有名になってもいいし、
少人数のファンと信頼でつながる働き方だって素晴らしい。
何を選ぶかで優劣なんてありません。
たったひとつの正解を探すのではなく、
「自分がどうありたいか」に耳を傾けて、
その答えを、これからの人生で少しずつ見つけていってください。
夢に向かってがむしゃらに走る時期もあれば、立ち止まって考える時期もある。
疲れて休んでしまう日があっても、それも全部、あなたの成長に必要な時間です。
どんな働き方にも、どんな場所にも、美容師としての“価値”はある。
そしてその価値は、あなたが“誰かのために手を動かすこと”ではじめて生まれます。
カットの仕上がりだけじゃない。
髪質の変化だけでもない。
お客様の表情が明るくなった瞬間こそが、美容師の真価なんだと思います。
だから、どうか自分を信じて、進んでください。
あなたの“美容師人生”は、これから始まります。
その未来には、きっと、あなたを待っているお客様がいます。
そして、あなたの技術や言葉や心に救われる誰かが、必ずいます。
その日を信じて、今日も一歩ずつ、進んでいきましょう。
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